COOL ALLEY   森園 勝敏

 

MOUSE ON !

 (CD再発) KING RECORD KICJ 2206 2,000円

 

雷神
THUNDER GOD(K.Morizono,S.Nakamura) 2:02
クール・アレイ
COOL ALLEY(K.Morizono) 4:48
スティックシフト
STICK SHIFT(S.Nakamura) 6:54
プロミス・ザ・ムーン
PROMISE ME THE MOON(Danny Kortchmar) 4:09
ナイト・タイム(イン・ザ・スイッチング・ヤード)
NIGHT TIME IN THE SWITCHING YARD
(W.Zevon,R.Wachtel,J.Calderon,D.Lindell) 4:44
キャプテン・カンガルー
CAPT. KANGAROO(K.Morizono,S.Nakamura) 2:30
エヴリボディーズ・ストーンド
EVERYBODY'S STONED(M.R.Hirsch) 4:17
ライツ・アウト
LIGHTS OUT(K.Morizono,S.Nakamura) 6:37

サウンド・クリップは、90秒収録、リアル・オーディオのストリーミングです

 

パーソネル
森園勝敏 KATSUTOSHI MORIZONO(el.G,vo)
中村哲 SATOSHl NAKAMURA
(fender rhodes,mini moog,arp strings ensemble,org,oberheim eight voices.ts & ss)
ラリー・ネクテル LARRY KNECHTEL(ac.p)
八一ヴィー・ニューマーク HARVEY NEWMARK(f.b)
ジム・ケルトナー JIM KELTNER(ds)
マック清水 MAC SHIMIZU(per)
中村裕美子 YUMlKO "minnie" NAKAMURA(background vocaI)
チャック・フィンドレイ CHUCK FINDLEY(tp)
オリー・ミッチェル OLLIE MITCHELL(tp)
ジョージ・ボハノン GEORGE R. BOHANON(tb)
ジャッキー・ケルソ JACKIE KELSO(as)

Produced by SHIGEYUKI KAWASHIMA for Electric Bird Iabel(King Records)

Arranged by KATSUTOSHI MORIZONO & SATOSHI NAKAMURA
Horns arranged & conducted by SATOSHI NAKAMURA

Recorded & Mixed at KENDUN RECORDERS, Burbank, California(June 4 thru June 14)
Engineer : Geoff "Dr." Sykes
Assistants : Terry H. More, Tony Cassella
Mastered at KENDUN RECORDERS by Geoff Sykes
Musical Contractor : William Henderson
Promotional Director : Kazuo Iwasaki
Shaken Tsukahara
Management : NOBUYUKI NAGASAWA

Special Thanks to:Althea, P.J., Paula, Cyn and all at KENDUN RECORDERS
for good vibes; Bill for gettin' it all together;
Paul Herwick of SI. R. (Los Angeles) for various instruments;
Geoff for concern and magic touch and, above all, patience ! &
Bricks, Tetsu Selection

Very Special Thanks to : NOBUYUKI YOSHINARI (Taiyo Music, Inc.)
Front Cover Phots by YOHJI KOBAYASHI
Back Cover Photo by FUTAO TAKAHASHI (Player Co., Ltd.)
Re-mastering Engineer: SEIJI KANEKO (King Records)

 

ライナー・ノーツ

 日本人アーティストの海外録音は次第に増加しつつあるようだが、経験者の多くが異口同音にその結果を満足そうに語っている。科学的なデータを持出すまでもなく、確かに、“何か”が違うのは明らかだろう。そして、森園勝敏も、その“何か”を実感して帰ってきたのである。
 この、森園勝敏のセカンド・アルバムは、ロサンジェルス北東にあたるバーバンクの、Ken Dun Recordersで制作されたものだ。つまり、録音から、最終的なマスター作りまですべてを完了してきた訳で、そこには明らかに満足できる結果が示されている。
 5月28日Hに成田空港を飛び、6月17日
に再び成田に戻るまでの3週間、レコーディング以外の行重もほとんど一緒だった僕は、本来ならば一部始終を報告しなければならないのだろうが、おそらく一冊の本が出来上がってしまうだろうから、ここでは主な部分にだけ触れておくことにしよう。
 実際に録音を開始したのは6月4日、つまり最初の1週間は“準備期間”という訳で、まず29日にスタジオの下見に行き、エンジニアのジェフ・サイクスに会った。彼はこれまでに広範囲にわたって仕事をしており、最近ではエイドリアン・ガーヴィッツやディー・ディー・ブリッジウォーターなどが,記憶に新しいところ。スタジオ側のスタッフとも打合わせを済ませ、あとは6月4日を待つのみとなったのである。
 参加ミュージシャンは、渡米に先立ってさまざまなアイディアがあった末、ドラムスにジム・ケルトナー、ベースにハーヴィ・ニューマーク、そしてピアノにラリー・ネクテルというリズム・セクション、そしてチャック・フィンドレー(トランペット)、オリー・ミッチェル(トランペット)、ジョージ・ボハノン(トロンボーン)、ジャッキー・ケルソ(アルト・サックス)というホーン・セクションに決定。これに森園と、今回アレンジ面で準主役とも言うべき好サポートを見せた中村哲、それにパーカッションのマック清水、バックグラウンド・ヴォーカルに中村ユミコ、という顔振れで録音が進行した。
 各ミュージシャンについての詳しい紹介は省略するが、おそらくジム・ケルトナー、ラリー・ネクテルあたりが一般的には最もなじみのあるところだろう。ハーヴィ・ニューマークは、昨年アニタ・オディのツアーに同行するなど、いわゆるジャズ・サーキットでは名の通った男。いずれもベテランぞろいで、年令的にはかなり差のある森園のプレイにはあからさまに新鮮なショックを表わしていたようだ。そんなことからもすぐに気持が通じ合い、熱心に音楽論を交す光景も見られた。
 このKen Dun Recordersでは、鈴木茂や風そして狩人といった日本人アーティストが録音したということで、エンジニアのジェフはこうした日本からの音楽にある程度の知識は持っていたが、森園のプレイには、それまでの彼の予備知識を越える“国際性”がある点を強調していた。ていねいで正確なジェフの技術に加えて、録音が進行するにつれて次第に彼の熱意が増してゆくのを感じたのは、僕だけではなかったはずだ。オウナーのケント・ダンカン氏をはじめ、スタジオのスタッフが続々とミキシング・ルームにやって来ては愛敬を振りまいて、なごやかな雰囲気を創り上げていた。予定時間よりも早くスタジオに入ってさまざまなアイディアを練り、我々が帰った後もあれこれと動き回っていたジェフの姿は、スタッフが一番良く知っている。
 すべての行程を終え、参加してくれたミュージシャンと別れのあいさつをする頃までには、全員の熱意が作りあげたこのアルバムに対する愛着が、共通の思い出となっていたのである。

《曲目について》
1.雷神
プリズム時代に“風神”という曲があったが、これはカミナリ様の古典的なイメージを打ち破る、森園と中村の共作。アルバム全体のオーヴァーチュアとしての狙いが伝われば大成功、といったところ。この曲のモチーフをミュージシャンに説明する川島プロデューサーの熱演を伝えられないのが残念。「昔から日本では、カミナリ様がオヘソを欲しがって・・・。」
 この曲で森園が使っているギブソンSGは今回ハリウッドで購入したもの。

2.クール・アレイ
小ぎれいな店や近代的な建物が並んだハリウッドやビバリー・ヒルズあたりでも、裏にまわれば対照的なさびしさがあるのを見つけた、森園の作品。超モダンな雰囲気と、どこか冷たさのある部分が反映されている。

3.スティックシフト
中村哲の曲で、スピード感の中にも無機的にならない-オートマチックでない!?-パワーが印象的。カリフォルニアのハイウェイを走るにしても、スティックシフトのスポーツ・カーの方が面白いに決まってるのだ。
 中村のテナー・サックス・ソロとハーヴィのベース・ソロがフィーチュアされている。

4.プロミス・ミー・ザ・ムーン
ダニー・クーチの曲で、アティテューズやジェイムズ・テイラーのものとは多少異なったアレンジが新鮮だ。以前から森園が気に入っていたものであり、オリジナルでジム・ケルトナーがプレイしていた事もあって、録音中の雰囲気もかなり盛り上っていた。
 森園のヴォーカルに応えるようにバックグラウンドで歌っているのは中村“ミニー”ユミコ。

5.ナイト・タイム(イン・ザ・スイッチング・ヤード)
ウォーレン・ジヴォンの作品で、彼の「エキサイタブル・ボーイ」のアルバムに収められているもの。森園と中村によるアレンジはここでもオリジナルとは異質の魅力を生み出している。ここでもミニーの声が・・・。

6.キャプテン・カンガルー
森園と中村が日本で作った曲で、レコーディング中に原型を離れて、ジャム・セッション的な色彩が強くなってしまったもの。参加ミュージシャンは、ここではかなり自由にプレイしているのがわかる。タイトルは、アメリア中の子供達(あるいはほとんどの人々)が必ず見た覚えのある人気TV番組。エンジニアのジェフも小さい頃見ていたそうな。ちなみにこの番組は現在も朝の8時とか9時頃に放送されている。要するに、“オール・アメリカン・フェイヴァリット”といったところ。

7.エヴリボディーズ・ストーンド
ウェット・ウィリーの曲。ブルース・ハープの妹尾クンも以前に歌っていたっけ。間違いなく全員一致で大好きな曲だ。ヴォーカルに意欲的になってきた森園が、この曲では特に感情を入れ込んで歌っているように聞こえるのは、歌詞を充分に把握しているから!?

8.ライツ・アウト
再び森園と中村の共作。アルバムの最後を飾る上で非常に効果的な余韻が残る。ここでハーヴィのベース・ソロは、実際にプレイしている彼の表情がそのまま伝わってくるほど説得力がある。フェイズ処理は、そうした起伏を更にはっきりとさせているようだ。
 ナイト・ピープルの面目躍如、といった感じて熱っぽくプレイする様子と、夜の街から次第に人影が少なくなっていく様子がオーヴァーラップして、フェイド・アウトと共にカメラがズーム・バックしていく・・・。
このアルバムに収められた8曲のうち、5曲がオリジナルである訳だが、いずれも日本にいる間に基本的な曲の構成を作っていったにもかかわらず、ハリウッドとバーバンクを往復するうちに、またロサンジェルスの空気に触れているうちに、さまざまな刺激が曲に反映される結果になっている。
 ミュージシャン同士の意見の交換や、森園自身、あるいは中村を含めて、初めてのカリフォルニアで得たさまざまな体験が、直接・間接を問わず、このアルバムのすみずみに生きていることは、聴き手の感性にのみ訴えかけられるのかも知れない。とりあえず、このセカンド・アルバムは、森園勝敏にとって大きなステップになったことは疑う余地があるまい。


(June 29, 1979 吉成伸幸)
(このライナー・ノーツは1979年発売のLPより転載いたしました)